知らせが来た。
明日、迎えにいきます、
お食事も沢山ご用意しておきます。
綺麗な文字が並んだ手紙に目を通したルフィは、そっか…と呟きながらルスカイナの夜空を見上げた。
「もう2年、経ったんだな。」
思い返してみれば、あっという間の2年だったかもしれない。
修行の日々は予想以上に過酷で、根をあげそうになったことも少なくはない。
「明日、船に乗って…数日したらシャボンディ諸島に着く。
約束の日は、もうすぐなんだ。」
それでも、乗り切った。
何度も弱音を吐きながらも踏み止まり、困難を乗り越えてきたのだ。
他でもない、再会を誓った仲間達の為に。
「みんなも、無事着いているといいな…。」
あいつらの事情などお構いなし、一方的に送り付けたおれの我侭だったけれど。
きっと、いや、必ず。みんなは来る。
ゾロ、ウソップ、サンジ、ナミ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック…!
「…明日に備えて、そろそろ寝ねるか」
かなり前にレイリーが帰ってから、おれ一人で過ごしてきた。
その頃にはルスカイナの動物達ともかなり仲良くなっていたので、寂しいという気は起こらなかった。
寝る時も奴らの背中で横になったりしていたので、思えば“ココ”にやってきたのは、島に到着したばかりの時以来かもしれない。
麦わら帽子と、みんなともう一度再会するための大事な紙、ビブルカードが置かれたこの場所。
ここには何故か動物達が寄って来ない。それでもおれは今日、この場所で寝ようとおもったのだ。
麦わら帽子を見ていると自然と仲間達の姿が浮かんでくる。
もうすぐ逢えるのは分かっているけど。
その日がもう目の前まで来ていると知ってしまったが最後、逢いたいという気持ちが一気に加速しはじめて…。
この場所で眠れば、もしかしたら…夢の中でもその姿を垣間見ることができるかもしれないと。
ただ、そんだけ。
「おやすみ、みんな。」
身体を丸めながらその場に横たわる。
少し夜風が冷たい…そういえばそろそろ冬が来る頃だったか?
雪が降るかもしれない。まぁ凍死するようなことはないだろうけど。
眠りの気配が近づいてくる。
ルフィはそのまま身を任せ、夢の世界へと落ちていった。
* * *
・・・暗い。
《その場所は暗くて、誰もいない筈なのに。》
真っ暗だ。
《でも確かにその存在を感じていた。》
ルフィは闇の中に居た。
《おれ達、わたし達は、其処に居たんだ。》
間違いなくココは夢の世界なのだろう。それにしても。
「どうせならあいつらに逢わせてくれよな〜」
《声は、聞こえない。》
プクーと頬を腫らしたルフィは、ゴロンとその場に転がる。
「夢ん中でも寝れんのかな…」
《話しかける事も、できない。》
首を捻ってから目を閉じてみる。
《丸くなって眠るルフィの周りを。》
開いていようが閉じていようが、やっぱり真っ暗だ。
《おれ達、わたし達は囲んでいて。》
「なんだこれ、面白ェな〜」
何度か開いては閉じてを繰り返していると、だんだんと飽きてきた。
《2年前とやることはあまり変わってないな、と。》
ルフィはうつ伏せに寝転び、今度こそ寝てやろうと顔を伏せた。
《その場にいた全員が思ったことだろう。》
「…あと、もうちょいか」
だが、こうも闇が広がっていると、思考力が湧いてくるというか考え事が多くなってくる。
約束の日まで数日と知ってしまったからかもしれないが、妙に浮き足立っているのがいけないのだろう。
みんなに逢える。
《そうだな、もうすぐだ。》
「…元気してっかな〜」
《もうすぐ、逢えるんだよな…。》
初めに出逢ったのはゾロだった。
海軍の拷問で死に掛けていたゾロに、刀を盾に仲間になれと要求したんだっけ。
「ゾロが仲間になってくれたから、麦わら海賊団として旗揚げできたんだ…感謝してる」
《らしくねェこと言ってんじゃねェ。…オレの方こそ、テメェに感謝してるよ。…ルフィ》
それからナミと出逢った。
ナミは最初海賊嫌いで、おれのことも毛嫌いしてたよな。
「ナミ、あの時おめェは仲間になったつもりはねェって言ってたけど、おれはずっとナミを仲間だとおもってたぞ」
《…アンタのそういう所に、何度救われてきたことか。…今度は私がルフィを支えてあげるからね。》
次はウソップだったよな。
ガタガタ震え上がりながらも村の為に、お嬢様の為に、勇敢にオマエは戦ってた。
「なんだかんだ文句言ってても、いつだってウソップは立ち向かっていくんだ。おめぇは強ェよ、おれの自慢の狙撃手だ」
《ルフィっ…。オメェの期待に応えられるよう、せいいっぱい頑張ったんだぞ!早く、ルフィに俺様の腕前を見せてやりてェよ》
そして、イーストブルーでの最後の仲間、サンジ。
コックを求めて着いたバラティエという店。まさか、戦いにおいても信頼の置けるコックに出逢えるとは思いもしなかった。
「おれが選んだコックだから当然だけどな。強ェし、飯はうめぇし、言うコトなしだ!…サンジの飯、早く食いてェよ」
《お褒めに預かり光栄です…なんてな。再会したらすげぇ美味い飯作って、度肝抜かしてやるよ。待ってな、ルフィ!》
グランドライン最初の仲間は、チョッパーだ。
ナミが倒れちまって、死んじまうほどの病からナミを救ってくれたのが魔女のバアさんと、チョッパーだった。
「チョッパー達に出逢えなかったら、大切な仲間を一人失ってたんだ…最高の船医が出来て、おれは嬉しかったぞ」
《ルフィと出逢えたから、今のオレがあるんだ。みんなの為に強くなりたいって思えることがこんなに嬉しいなんて知らなかったよ》
もう一人の影の仲間、ビビを送り届けた先でロビンが船に乗った。
アラバスタでは敵同士だったけど、おれはどうしてもロビンが悪いヤツには思えなかったんだ。
「おれは間違ってなかったぞ、ロビン。おめぇはもうおれたちの仲間なんだ…、ロビンの敵はおれ達の敵だからな」
《ありがとうルフィ。私はもう、二度と間違ったりしないわ。私は麦わら海賊団の考古学者で、貴方の仲間なのだから…。》
世界政府に喧嘩を仕掛けたとき、おれ達と共に戦ってくれたフランキー。
頼りがいのある兄貴肌なフランキーの存在は、おれ達にサウザンドサニー号という新たな仲間を与えてくれた。
「メリーの想いは、フランキーやアイスのおっさん達の手でサニーに受け継がれてる…。おれはあの船で、必ず海の果てに行ってみせるから」
《期待してんぜルフィっ!!おめェが居てこその麦わら一味なんだからよっ!サニー号も、首を長くして待ってることだぜっ!!》
そして散り散りになる前に出逢った、最後の仲間ブルック。
“仲間”という形になってから、たったの数ヶ月で仲間はバラバラになってしまい、アイツはどう思ったのだろう。
「絶対、また会おうなブルック。いっぱい、いっぱい笑おう。そして今度こそ、おまえをラブーンの元に連れて行ってやるから…」
《えぇ、おおいに笑い合いましょうルフィさんっ!アナタの笑顔が永遠に続くように、力いっぱい磨き上げた、この音楽の力で…。》
伝えたいことが、沢山ある。
《聞かせたい話が、沢山ある。》
話したいことが、山ほどある。
《語りたいことが、山ほどある。》
“とにかく全員逃げろォオオ!!”
“逃げろっ、逃げろォオオオオーーーーっ!!!!”
逃げ出す事しか、出来なかった自分。
《おれ達、わたし達にも、どうすることも出来なかった。》
“…仲間一人も、救えない…っ!!”
誰一人として、仲間を救えなかった自分。
《それは、誰もが皆思ったことだから、》
《ルフィが全てを背負う必要は、ないのに。》
“やめろ・・ヤメロ、やめろっ・・・やめろ・・・っ!!”
“もう、やめてくれぇえええええええ!!!!”
もう二度と、あんな想いはさせない。
もうあんな想い、したくない。
《ルフィに、あんな想い、させたくないから。》
―――その為に、2年もの時間を費やしたのだから。
―――もう二度と、負けないように。
《ルフィの海賊王という夢を、叶えさせてやる為に…!》
『『『『約束の地で、かならず逢おう・・・!』』』』
徐々に意識が薄れていく。
途切れる瞬間、仲間達の声が、聞こえたような気がした…。
ルスカイナ島を離れる直後のお話です。
あの積雪量からして一夜で降り積もったとは到底思えないけど其処は許して下さい。
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