「オィ、いい加減顔出せよ」
「・・・・。」
新しい年を迎えクルー全員が杯を掲げ、盛大に乾杯してから数時間が経った。
一向に終わる気配を見せない宴の席から腰をあげて、サンジが向かったのは食料庫。
其処には、数時間前からその場に立て篭もってしまったこの船のキャプテンがいるのだ。
盛大な宴の最中にこの祭り騒ぎが大好きな船長が何故姿を現さないのか、その理由は当の本人にあった。
「あのなぁ…オメェが下拵えしておいた食材を勝手に食っちまうからいけねぇーんだぞ」
「・・・・。」
「他のヤツより肉の量がちっとばか少なかった程度で、なにもそこまで拗ねなくてもいいだろうが…」
「スねるっ!!いいからもうアッチ行ってろサンジっ!!」
食い物の恨みは深いとはいうが、ルフィの場合は深いなんて生易しい言葉じゃ済まされない。
それを一番理解していた筈のサンジが、反省を促すためにちょっとしたイタズラ心でやった行いがここまで裏目に出るとは思っていなかった。
――完全に甘く見ていた。ルフィの食に対する執念を。
カウントダウンを終えて意気揚々と宴の料理に手をつけようとし、自身の皿に盛られた肉の量が他のクルー達よりも若干少ないことに気付いた瞬間サンジに食って掛かった。
あまりにしつこいルフィに対して、サンジは少々苛立ちながら“テメェは宴が始まる前に盗み食いしてただろうが!これは当たり前の配分だ!”と突きつけたサンジに、とうとうルフィはキレてしまった。
機嫌を損ねてしまったルフィは、それ以降宴の席に顔を出す事なく食料庫を占拠し立て篭もり続けている。
宴用の調理食材は事前に冷蔵庫へ移していたので、特に立て篭もられても問題はないのだが…。
時折、クルー達からの“何とかしろよ、オマエがきつく言い過ぎた所為だろ?”という意思をもった視線を向けられてサンジは渋々立ち上がって、こうして立て篭もり犯の説得に挑んでいるわけだ。
が、彼是もう何度目の説得にもルフィは頑固として一切応じようとしない。代わりの料理を拵えてやるから、それでも足りないなら更に追加オーダーも受け付けてやる、食いたいものなんだって作ってやる。
ルフィには魅惑的な誘いである筈なのに、それでもルフィは食料庫の扉を開いてはくれなくて。返ってくるのは、あっちへ行け、ほっといてくれという拒絶の言葉ばかり。
せっかくの宴だというのに。
船長がこの状態では、祭りも盛り上がるわけがない。
「…ルフィ、悪かった。謝るから、出て来いよ」
「いやだ。」
「意地悪が過ぎたよな。も二度とやんねーから、な、ルフィ…」
「い や だ っ」
頑なにサンジを拒絶するルフィ…。
完全に手詰まりだった。こうなったらサンジにはどうする術もない。
何せコイツの弱点といってもいい肉を倍増しにして与えてやるという餌にさえ食いついてくれないのだから。
食料庫の扉に額を押し付け、ハァ…と一つため息をついてから、サンジはくるりと反転させた。
扉に背中を預け、ポケットから取り出したタバコを咥えた。
「分かった。オマエがその気ならもう何も言わねーよ。
その代わりに、オマエが出てくる気になるまで、オレもここで居座ることにした」
「・・・っ!」
「好きなだけ引き篭もってろよ、オレぁ黙ってるからよ」
ふぅ…と紫煙を吐き捨てる。
一体、年明け早々に何やってんだかオレ達は…。
「・・・・。」
「・・・。」
「・・・・、ふぅー…。」
「・・・。」
「・・・・。」
「・・・・・・・、・・・なぁ」
「・・・ん」
長期戦になるだろうな…と予感させるムードになりつつあった頃、
扉の向こうからポツリと聞こえてきたルフィの弱々しい声にサンジは内心驚きつつも耳を傾けた。
「・・もう、怒ってねぇから。皆のとこ戻れよ」
「怒ってねーなら、顔見せろよ」
「・・・それはヤだ。」
「んじゃオレも行かねぇ」
「なんでだよ…。」
「なんでもだ。」
どうしてそんなにも顔を出したくないんだろうか?
まだ食い物のコトでむくれているのならまだしも、もうオレに対する怒りが消えたというのなら何故。
新年早々、ケンカなんてやってられるか。
ましてや得体の知らねー意地だけで拒絶され続けるオレの気持ちはどうしてくれる。
「ルフィ、顔見せろ」
「やだ。」
「顔が見てェ」
「・・、い、やだ」
「そんでキスさせろ、」
扉の向こうで、ルフィが息を呑んだ。
瞬間、サンジは確信を得る。この方法でならいけそうだ。
「今すぐ扉あけて、オレを中に入れろ。そんで、オマエの好き放題しろ。
今日だけは、何されても嫌がんねーから」
「・・さんじ、自分で何いってんのか」
「あぁ、全部分かって言ってるつもりだ」
ニヤリと不敵に笑ったサンジは、扉の向こうで此方の出方を伺っているであろうルフィにわざと聴こえるようにジャケットを脱ぎ捨てた。
バサリとテーブルの上に舞い降りたジャケット。シュルリと布の擦れる音をたて解かれるネクタイ。
「・・どうする?ルフィ」
「・・・〜〜っっ」
勢いよく開いた扉から腕が伸びてきて、手首を掴まれたとおもった瞬間力強く引っ張られて。
薄暗い室内に、頬を僅かに上気させたルフィを捉えた瞬間、ちょろいもんだな、とサンジは心の中で勝どきをあげたのだった。
END
オマケ:
結局、ルフィが立て篭もるまでに至った理由が不明なままだったのでその日の翌日(正確には午後、とても起きられる状態じゃなかったので。)ルフィをとっ捕まえて問いただしてみた所。
「だってよぉー…サンジここ数日ずっと宴の準備してて相手してくんなかったろ…。」
“構ってほしかったんだよ”
と、口を窄め伏せ目がちに言うものだから。
そんなコトで不貞腐れてたのかよ、ガキだなぁと呆れる反面。
「ま、暫くは宴が出来る余裕なんてねーし、また立て篭もられても面倒だしな。
オマエの気が済むまで、相手してやるか。」
「ししっ、そうこなくっちゃな!!だからおれ、サンジのコト大好きだっ!」
途端背中にしがみ付かれ、よろけるオレ。
振り向けば満足そうに笑うルフィがいて、仕方がないなと肩をすくめる。
コイツの笑顔を見るだけで、ま、いっかと許せてしまうんだから、オレもどうしようもないよな…。
「今年もよろしくな、ルフィ」
「おぅ!今年も美味い飯よろしくな、サンジ!」
「・・・はぁ。
あぁ、任せとけ」
2012年の元旦記念小説として書いた作品になります。
子供っぽい“攻め”ルフィさんを宥める男前“受け”サンジさんの図。いつ如何なる時でもイチャついてくれればいいと思う。