“2年後にシャボンディ諸島で”
船長から受け取ったメッセージの通り、彼等は2年という長い時間を経て再びこのシャボンディ諸島へと舞い戻る。
そして島に上陸した者から順番に彼等はレイリーの導きによってサウザンドサニー号が停泊している17番GRへと続々と集まってくる。
懐かしい顔が増える度に歓声と安堵の声があがる。そして彼等は、この2年間の修行の成果を報告し合う。
体格が良くなった者、スタイルに更に磨きが掛かった者、超越しすぎて最早人間を捨ててしまった者など、見違えたメンバーに吃驚しては笑い、飽きるほどに何度も何度も再会を喜び合ったのだった。
―――しかし、
「何の、変態プレーなの、あの姿は…」
「ウフフ、さあ…新たな趣味かしら?」
おそらく、彼以上にこの2年で変わった…いや、変わり果ててしまった人物は居ないだろう。
声を掛けるのも思わず躊躇われるほどのその人物は、麦わら海賊団の美女二人を視界に捉えた瞬間其方目掛けて走り出した。
一目散に駆けていくその人物が近づいてくると、クルー達は一様に飛び退いた。
『ナミすぁあぁぁああんぅ〜〜、ロビンちゅあぁぁあんぅ〜〜!』
確かに聞き覚えのある呼び方に、けれども何処となく艶めいた色を醸し出さんとしている声音は、彼の異常事態を明確のものにした。
(この2年で、一体彼の身に何が起こった!?!! )
この場にいた誰もがそう思ったに違いない。
だがしかし、ここに居る全員から異形を見るような目を向けられている彼はそんなのまったく気にしていない。勢いのまま女性陣達に抱きつこうとしたので、即座に航海士が動き、得意の踵蹴りで相手を鎮めてしまった。
「何すんのよ変態っ!!」
「ヘンタイ?…呼んだか。」
「アンタも変態に違いないけどっ、今はコッチよ!コッチっ!!」
「オィオィ〜…オマエ一体どうしちまったんだよぉ〜〜…」
2年前のボケにも瞬時に対応してみせながら、ナミは甲板に沈んだままの人物をビシリと指差した。
モロに入った蹴りに流石のウソップも心配になったのか、未だに顔をあげようとしないその人物に駆け寄る。そして改めて彼の無残な変わり様にウソップはよよよと涙を滲ませる。
と、倒れていた彼がむくっと起き上がった。吃驚して腰を抜かしたウソップには目もくれず、ナミとロビンの前で恭しく腰を屈める。
二人の目線に入る、金髪の……ロングヘアー。
「ナミさん、ロビンちゃん、お久しぶりですねぇ。一日も早く、お二人の顔が見たかったわ…」
バチン、と。おそらくそれはウィンクだったのだろう。ただ夢か幻か。片目を閉じた彼から間違いなくハート型の岩がこぼれ落ちたのが見えた気がする。
その異様さに耐えられなくなったナミが絶叫しながらロビンの背に隠れてしまう。そんなナミに首を傾げながらも、彼は負けじと腕に抱えていたヨレヨレの花束をナミとロビンに手渡した。
・・まぁ、ヨレているのはさっき蹴飛ばされた所為だろう。
「再会を祝して二人にぃお花を用意したの。喜んでくれると嬉しいのだけどぉ…」
花束を差し出しながら奇妙な踊りを始める彼に。これは2年前から変わらないと思っていた二人、のだが。
クネクネというよりかは、モジモジと…。彼の方が身長は高いはずなのに何故か上目遣いに瞳を輝かせてくる彼に、ナミはおもわず吐き気を催す。
普段なかなか物動じしないロビンでさえうっすらと冷や汗を浮かべているのだから、ナミがそんな状態に陥ったとしても仕方がないといえる。
なかなか受け取ってくれない二人に、いよいよ彼が困り顔をみせはじめた頃、ようやくナミとロビンは花束を受け取った。
困り顔もまた、気持ちが悪かったのだ…。
「あ、ありがとう…貰うわ」
「えっと、ね?サンジ君、聞いても、いい…?」
「えぇ、モチロン。
幾つでも、なんなりと聞いてくださいな」
いい加減、現実から目を逸らしてはいけない。このまま何も問わずに、再出発を迎えるなど、到底出来はしないのだ。
ナミは意を決して、目の前の彼…、サンジに向き合った。
金髪のロングヘアーのウィッグに、ゴテゴテに厚く塗られた化粧。
淡いピンクに花柄のひらひらスイーツドレスに、テカテカと輝く蛍光ピンクのパンプス。
そう、彼の恰好は、女性そのもの…。
サンジは、なんと女装していたのだった。
「…聞きたいことは、一つだけなんだけど…ね?どうしちゃったの、その、、恰好…」
「ウフ、似合いますか?カワイイでしょ?」
「え、えぇ…に、似合うとおもうわ。でも、そうじゃなくてねっ」
「コックさん、ナミが聞きたいのはね、貴方が何故女装しているのかって事よ」
「あら、ゴメンナサイっワタシとしたことが…!ワタシね…この2年の間で気付いてしまったの。」
「なっ…何に気付いてしまったのかしら?」
「ワタシの中に、偽らざる乙女の心が眠っていたことに…!
そして、ワタシはあの方と出逢って、ようやくその思いを開花させたのっっ!!」
まるで悲劇のヒロインが神に願いごとをする時のポーズから、サンジは大空へと向かって両手を拡げた。
おそらく“開花”という部分を身体全体で表現したかったのだろう。
ナミは頭が痛くなってきた…。
「そ。…開花したのか退化したのか、もうどうでもいいわ。
サンジ君がオカマになろうがフランキーが人間捨ててようが。ともかく全員揃って無事出航できれば、それでもう満足よ…」
どうやらサンジのアホさ加減には変化はなかったらしいが、といって、何の慰めにもならない。
いやむしろ、悪化したといえるのではないか?アホのオカマとか、救いようがない…。
早々に考えを捨てたナミはイワ様だか、ヤマ様だか知らないがブツブツとぼやき続けるオカマを放っておいて、周囲を見渡した。
「それで?あと誰が来てないの?」
「ゾロと、それからルフィね。」
ルフィの名が出た瞬間、目の前のオカマがびくりと反応してみせたが、ナミは見なかったフリをして話を続けた。
「ゾロが一人でうろついてるとか、…それなんて死亡フラry」
「そう思ってチョッパーを迎えに行かせてあるぜ」
「チョッパーさんなら、いざという時は鼻が利きますからねっ!」
後は二人が到着するだけだ、と話は纏まったのだが。
話が進む間、艶めいた女声(男声)がルフィ、ルフィと語尾にハートをつけて呟くオカマが居たのでナミは盛大にため息をついた。
そうか、そういえば2年前の今日だった。
サンジの背にくっついたまま、ルフィがいきなり“俺達お付き合いすることになった!”とクルー全員の前で宣言したのは。
あの女好きのサンジにどういう心境の変化が!?と一時騒然となったが、抱きつかれたままのサンジはそれを否定する事なく、むしろそれ以上に引っ付こうとしてくるルフィに、照れくさそうに笑っては彼の頭を撫でていた。
誰が見てもお互い好き合っているのは明白だったので、本人同士が幸せならばとクルー達は二人の関係を暖かく受け入れることにしたのだ。
そして2年…。恋人という関係になったばかりの二人には長く、辛い年月となっただろう。
でも、それにしたって…。
(まさか2年経って恋人がオカマ化してるとはルフィも思わないわよね…)
「あ、ほらあそこっチョッパー帰ってきたみたいだぞっ!」
「アゥ!男前二人も連れてきたみてェだロボ」
「ルフィさんと、ゾロさんですね〜っ♪あぁ、なんと素晴らしいコトでしょう!
皆さんとこうして再び生きて出逢えるとは…!あ、ワタシとっくに死んでましたね、ヨホホ〜〜♪」
我らが船長ルフィの登場に湧き立つクルー達。
仲間が離れ離れになった後、ルフィを襲った悲しい出来事は世界中を駆け巡り、ここにいるクルー全員に激震を与えた。
兄エースの死は、ルフィにただならぬ悲しみを与えたに違いない。それこそ心が折れてしまう程に…。
だがその数日後、再び紙面を賑わせたルフィの思わぬ行動に、彼の信念はまだ其処に変わらずある事を知った。
だからこそクルー達は自身の為に、仲間の為に、そしてルフィの為に。この2年をそれぞれ戦ってきたのだ。
そして彼は今、自分達の目の前に立っている。
何年経っても決して変わらない笑顔を向け、大きく手を振っているのだ。
思わず涙ぐむナミがルフィへ向かって声を張り上げようとした直後、
「ルフィ…ホント、良かった。良かっ」
「ルッフィィイイイ〜〜〜Vv逢いたかったわぁ〜〜〜っ!!」
――― そうだった。
…変わらなかった者もいれば、激変しすぎて原型とどめてない者も居たんだった。
ルフィと共に現れたゾロと、二人を迎えにいっていたチョッパーが瞬時に顔を引き攣らせたまま固まってしまった。
目の前に予想だにしないバケモノが突如出現したのだ。この反応こそ正しい。
だがしかし、そのバケモノに全身全霊のタックル、否、思いの外、力強い抱擁を受けとめた船長は、というと。
「しし、元気そうだなサンジ、逢いたかったぞーっ」
なんの疑問も持たぬ様子で、普通にサンジを軽々受け止めてみせた。
ルフィを抱きしめたまま頬を摺り寄せるオカマ版サンジにもルフィは動じない。むしろ2年の間に伸びた髭が当たってくすぐったいのか、終始笑い続けている。
だがしかしその光景は端からみれば、異形の生物が、いたいけな小動物を今まさに捕食せんとしているかのようで。
「…おぃ、これは何の惨劇だ」
「知らないわよ、というか、知りたくないわよ…。」
「ゔわぁああ!!大変だゾロォオオ!!ルフィが喰われちまうよぉおっ!!」
「なんで泣いてんだ?チョッパー」
「ヘンな事をいうわネ、チョッパー…むしろ喰われちゃうのはワタシの」
「やめろぉおお!!それ以上聴きたくねェからやめてくれぇええ!!」
収拾のつかなくなってきた船内に、突如レイリーよりもたらされた海軍艦の影。
すぐさまシャボンのコーティングを張り、サウザンドサニー号は2年の時を経て深海にある魚人島を目指して出航したのだった。
もしもシリーズ。2Y経っても尚、サンジがオカマのままだったら…?的なストーリーです。
ノリでやった、反省はしていない!(断言)いつの日か、オカマ症状がぶり返すんじゃないかと期待している私が居ます…。