上手なお花の咲かせ方 2





海底に潜った当初は、ワイドに広がる海中の様子にただただ興奮していたクルー達だったが、深海に近づくにつれそれもおさまり、
現在は思い思いの場所に落ち着いて、2年という月日を改めて振り返っていた。

それは2年もの間に、一心不乱に戦い続け、そして修得した『攻めの料理』を振舞うためにキッチンに立つサンジも同じだった。
魚人島に着く前に軽く腹ごしらえをと用意を始めたのはいいものの、2年ぶりに自分の料理を仲間に食べてもらえる、何よりも愛するルフィにおもいきり食べてもらいたいと思えば思うほど、彼の手は止まらなくなってしまい、みるみるうちに用意される料理の種類も増えていく。

「…ちょっと作りすぎちゃったわ」

軽く用意するつもりが、大宴会でもするのかと訊ねたくなる程にテーブルを埋め尽くしてしまった料理達。
うーんと唸っていたキッチンの扉が開き、其処からルフィが顔だけ出してくんくんと鼻を鳴らした。

「うまそーな匂いだ〜、サンジ、飯まだなのか?」
「ルフィ…。あ、そうだ!ちょうど良かったわ」

ポンと手を叩いたサンジは、ルフィにコッチへ来るように手招きして着席するよう促した。
目の前に並ぶおいしそうな料理の数々に、ルフィがヨダレを溢しながら目を輝かせていると

「あのね、皆に手料理振舞える事が嬉しくて、ちょっとだけ料理作りすぎちゃったのよ…良かったらルフィ、少し減らしてもらえないかしら?」
「え、いいのか!?これ食っていいのかっ!」
「食べてもいいけど、全部はダメよ?」
「おぅ!任せとけっ♪」

どーんと胸を張ったルフィが、即座に料理へ手伸ばしあっという間に皿を空にしてしまう姿にサンジは幸せそうに頬を緩めた。
心から愛するルフィが自分の作った料理を何度も美味しいといって食べてくれている。料理人として、そしてルフィの恋人として、これ以上の幸せはないだろう。

「美味しい?ルフィ…」
「うめェぞ!コレもうめェなっ!サンジの飯はやっぱうめェな!!」
「そ、良かったわ」

顔に飛び散ったソースの跡や食べカスを、サンジはナプキンで拭ったり、指で摘まんで自分の口に運んだりして甲斐甲斐しくルフィの世話をこなしていく。
あっという間に半分以上減った料理にサンジは満足して、まだまだ食い足りないというルフィをキッチンに残して残った料理を手にとり甲板へと出て行く。

「みんな〜〜、ご飯出来たわよ〜〜〜っ!」

船内に響き渡るオカマ声に、ルフィ以外のクルーはぞくっと背筋を震わせながらも芝生甲板へと集まってきた。
用意されたテーブルに自慢の料理を並べていくサンジは、全てを並べ終わると再びキッチンへ戻っていく。

「あれ?サンジ、オマエは食わねェの?」
「ウフフ、野暮なコトきかないでほしいものだわ…」

ほんのり頬を染めてキッチンを見上げたサンジに、ウソップはそれ以上聞いてはいけないと本能で察した。
ウキウキと今にも踊りだしそうな雰囲気でキッチンへ戻っていく彼に、暫く食器は返しに行かないほうがいいな…と顔を見合わせるクルー達が居た。

キッチンへ戻るとサンジの言いつけどおり椅子に座って大人しく待っていたルフィが居て、ニヤつく頬を押さえることが出来ない。締まりの無くなった頬をポンと叩いてから、サンジは再びキッチンに立った。

「さてルフィ、何が食べたい?」
「え、作ってくれんのか?!」
「モチロン♪リクエストは?」
「肉!」
「ウフフ、そうでしょうネっ」

すぐに用意するわ、とサンジは冷蔵庫に手を掛ける。
取り出した生肉をぱぱっと解体してみせて、厚めに切り落としたロースの塊に手早く下味をつけて巨大オーブンの中に放り込んだ。
焼けるまでの間に肉にあうソースを用意しようと鍋に火をかけていると、背後からルフィのうーんという唸り声が聞こえてきた。
鍋を気にしながらも、おもわずサンジが振り返る。

「どうしたの?」
「なぁサンジ、その恰好危なくないか?」
「危ない??」

サンジは自分の恰好を見直してみる。
先ほどから服装は変えてはいないが、念のためスイーツドレスを汚さぬようにフリル付きで胸元がハート型になっているエプロンをつけていた。
この恰好のどこら辺が危ないのだろう…?ハッ、もしや、ルフィにはちょっと刺激が強すぎた、とかかしらっ…!?
サンジは慌てて胸元とスイーツドレスの端に手を宛がいながら頬を紅く染め上げた。

「だ、ダメよルフィっこんな時間からっ…!」
「???いや、何言ってんだサンジ。俺が言ってるのは腕とか足とかむき出しになっちまってるから、火傷とかしねェか?ってコトで…」
「・・・あ」

真昼間からやらしい想像をしてしまった自分に赤面するサンジはブルブルと頭を振ってから指摘された腕と足を眺める。

「そ、そう…?ワタシはこれでもお料理できるけど…」
「そりゃサンジの事だからその辺りちゃんと気ィ使ってるとおもうけどよ?
万が一サンジが怪我するような事になったら、俺、嫌だぞ…?」

しゅんと、悲しげな表情を浮かべたルフィにサンジはキュンと胸を高鳴らせる。
なんと嬉しいことを言ってくれる恋人だろうかっ…!これに応えなければ乙女が廃るっ!とばかりに、その後のサンジの行動は早かった。
他のメンバーが楽しく食事をする芝生甲板を砂埃巻き上げ駆け抜けていき、そのまま男部屋の扉を蹴破る勢いで中に入っていった。
一瞬の出来事に男部屋の扉を見つめキョトンとする仲間達。

「・・・何事?」


男部屋に着いたサンジは自分のロッカーを開いて2年前から置きっ放しにされていたシャツとスーツに素早く着替えた。
キュッとネクタイを締めてからジャケットを羽織り、一度鏡の前で自分の恰好に目をやる。

「合わないわねぇ…」

化粧と、ウィッグ…パンプスも完全に浮いている。
しかし今の彼にはこれ以外腕を隠せる服装は生憎持ち合わせていない。

これは全て愛するルフィの為だ。致し方がないとサンジは腹をくくり、パンプスを脱いでロッカーから黒塗りの革靴を取り出した。
戦闘時の際、もっとも重要になってくる靴はいつ壊れてしまってもいいように予備を何個か揃えていた。
元々おしゃれな性分なので、服装に少しでも違和感があると正さなければ気が済まない。案の定履き替えてみれば、首より上以外はしっくりとおさまった。

「…とりあえずこの恰好でいいかしら、ルフィもこれで安心してくれるわねっ」

そうとなれば、今度は鍋が心配になってくる。
一応ルフィに火の番をしてもらってはいるが、おそらく『火を見ていてほしい』という言葉そのままの行動しかしていないだろうから。

「そんな所も、またカワイイんだけど…うふっ」

厚化粧に黒のスーツ姿のサンジが、一人惚気る様はなんと不気味なことだろう。
がそんなコトはまったく気になっていないサンジは再びキッチンへ向けて爆走したのであった。

「…おぃ、今服だけ戻ってなかったか?」
「もう気にしないでおきましょう?気にするだけ無駄よ…」

もくもくと食事を取りつづける仲間は、もう何が起こっても平常心よ!と一致団結してみせたのであった。

《2》