「呼びつけた張本人が遅刻っつーのは、如何なモンだろう…なァ、ドン・ルフィオーネ?」
「…あぁ。悪かった、どうしても外せねェ用事があった。」
「ハッ、そうかい…。…まぁ、いいさ」
さっさと用件を済ませようぜ、と話を進めようとしたゾロシア。いいだろう、と頷いてみせたルフィオーネが目線を別の所に向けた瞬間を見計らい、ゾロシアは後ろに控えた自身の配下、ナミモーレを視界の端に捉えた。
ルフィオーネには勘付かれぬよう慎重に送られたアイコンタクトに有能な幹部はすぐに理解したようで、ナミモーレは静かにその場を退出していった。
その様子を興味なさげに見ていたサンジーノは、やっぱ動き出しやがったか…とぼんやり考えてから座椅子に深々と背中を預けた。作戦は脆く破られ手駒も背後に控える幹部二人だけでは、もはやサンジーノにはどうでもいい事だ。
(共倒れしてくれりゃ、都合がいいのによォ…)
望みの薄い希望を脳裏に描きつつ、次にルフィオーネへと視線を向けたサンジーノ。
(さて、コイツはどう出るんだか…。)
「ウソトゥーヤ。」
ルフィオーネの合図を受けたウソトゥーヤが足早に駆け寄りルフィオーネの横に立つと、失礼します、とその場に腰を落とした。
胸元から一枚の封書を取り出し、台の上へと拡げる。中身は以前ゾロシア・サンジーノファミリー双方に宛てられた書面の写しのようだ。
「…用件はお二方へむけたこの書面に示した通りです。
我等がドン・ルフィオーネは、あなた方との協定…義兄弟の契りを求めていらっしゃいます。」
一言ずつ言葉を選んで、慎重に説明を進めるウソトゥーヤ。一片の粗相もないようにと、額からじわりと汗を垂らす彼を一瞥してから、ゾロシアはルフィオーネを睨みつけた。
事務的なことは部下にすべて任せ、当のルフィオーネはといえば葉巻を咥えたまま優雅に紫煙を燻ぶらせていて。
その態度に苛立ちを覚えたゾロシア。淡々と説明を続けるウソトゥーヤを遮るように、ゾロシアは盃を乱暴に置いた。
ビクリと肩を震わせ一歩後ろへ下がったウソトゥーヤを無視し、見下すような眼差しをルフィオーネへと向けた。
「この件はテメェから持ちかけた話だろうが。その張本人がなに悠長に落ち着きはらってやがんだ…」
「ドン・ゾロシア、ウチのドンはこれで良」
「俺が話しかけてんのはテメェじゃねェ…。たかだか一幹部はすっ込んでろっ!!」
ゾロシアが凄んでみせればウソトゥーヤはヒィっと声をあげてルフィオーネの背へと隠れてしまった。
このぐらいでビビるなんて随分と心臓の小せぇ野郎だ、とゾロシアは軽く鼻であしらった。
するとルフィオーネは背後に隠れた部下の姿をちらりと覗った後、葉巻からあがる紫煙を追いかけるように目線をゆっくりとゾロシアへと向けた。
一人苛立ちを露わにしているゾロシアを下から舐めるようにじっと眺めると、その口元にフッと笑みを作ったのだった。
(コイツ、この俺を嘲笑わってやがる…、!)
その余裕をみせた態度に、とうとうゾロシアの怒りも頂点に達した。急激に湧いた怒りの感情のまま、ゾロシアは脇に置いてあった愛刀、和道一文字の鞘に手をかけた。
険悪な雰囲気になってからも一貫して傍観者に徹していたサンジーノだが、ゾロシアが鞘から刀を抜き取った瞬間慌てて立ち上がった。
無抵抗のルフィオーネを庇ったつもりも、ましてや頭に血が昇ったゾロシアを宥めるつもりもない。無駄に巻き込まれて、被害を被るのが嫌なだけだった。
刀を振り上げようとするゾロシアの手を自慢の足技で止めようとサンジーノが屈んだ瞬間。
「ゾロシア。」
この状況を分かっているのか疑いたくなるほど、怖いくらい冷静なルフィオーネの声が室内に響き通った。
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