理性が飛ぶほど 2





「…ぁ、…ぅあ」

スーツは脱ぎ去られ、シャツは腕だけ通したまま中途半端にひん剥かれた。
開いた胸元に左手を滑らせ、利き手の方はといえばサンジの下腹部、ズボンのチャックの合間に突っ込ませルフィは執拗にサンジを追い上げていく。
下着の上から刻々と変化していくカタチを楽しんでいるかのように竿をなぞり、先端部をグリグリとこねられて、その都度漏れるサンジの嬌声にルフィは満足げに目尻を下げた。

「…きもち、いーか?」
「はァ…っ!…この、状況で、それ聞くか…っ…ン、ァ」
「んー、確かにきもちよさそーだな。…もっと、よくしてやる」
「ンぅ…!!」

途端降ってきたキスに、訊ねられた回答は絡みつく互いの唾液と一緒に飲み込まされた。喉を鳴らして飲み干したのを確認したルフィはそっと唇を離した。
銀色に輝く糸が名残惜しそうに二人を繋ぐ。気付いた二人が目を合わせると再び濃厚な口付けが始まった。

絡み合う舌の感触に身震いしながらサンジはルフィのベストに手を伸ばす。
内側に両手を挿し入れルフィの肩から腕にかけて滑るように降ろせば、意図を察したルフィもサンジを補佐するように袖から腕を引いた。
いつもなら健康的にやけた小麦色の肌一色になる其処は船医が丁寧に巻いた包帯によってその大部分を覆い隠してしまっている。
見え隠れする肌と包帯の境界線をサンジがたどれば、こそばゆいのかルフィは身をよじり戒めるかのように軽くサンジの下唇に歯をたてた。
チクとした痛みもまた、一度快感に囚われた身体にはちょうど良いスパイスとなって、全身に甘い疼きが駆け巡っていく。
疼きはそのままある一点へと集結し、正直なソコは歓喜の雫をとぷりと溢れさせた。

「…ルフィ」
「ん?」
「下、ぬぐから、…はなれろ」
「おれが脱がしてやるぞ」
「おまえ、がやったら、シワができんだよ、…すぐ、済ませる」
「そっか、わかった」

意外とあっさり引いたルフィの下から抜け出して、サンジは半分脱げかけたシャツに手をかけた。
どうせ余すところなく見られ、それどころか触られ、果ては突っ込まれるのだとしても、同じ男、しかも年下の相手に赤ん坊のオムツの取り替えよろしく脱がされるのには抵抗があった。
ベルトを寛げ、ずれ落ちかけているズボンと下着を一緒に引き下ろそうとしたが、散々捏ねくりまわされ悦びに濡れそぼるソコに下着のゴムが引っかかり、悲鳴に似た甲高い声をあげてしまう。サンジは慌てて腰をひいた。
幾分か頬の朱みが増したサンジは恐る恐るルフィの方へ向く。胡座をかいて頬杖をついたルフィの意地悪な笑みを見た瞬間、顔から火が出そうなほど急激に熱があがった。

「…だからおれがやるって言ったのに、」
「っ〜…!!」

言葉に詰まってしまい、これは以上動揺は見せまいとルフィに背を向け脱ぎ捨てたズボンと真新しいシミを作った下着を少々乱暴に折り畳んだ。

(まったく、ルフィ相手に何を翻弄されているんだオレは…)

抱かれる側とはいえ、常に年上である事の余裕を持ってコトにあたってきた自分が、今日は上手く立ち回れないでいる。

原因は間違いなく、ルフィにある。
ルフィのセックスは“客とコック”の間柄によく似ていた。ルフィが欲しい、とねだる。命令口調のそれではなく、それこそメシをせがまれているような甘えた雰囲気でだ。
ガキの頃からサービス精神が嫌という程染みついてしまっているオレは、頼られるという行為は嫌いではなくむしろ嬉しい部類に入る。
キスしてくれと云われたら、ルフィが満足するまで口付けを解かないし、舐めてくれと云われたらご希望に添えるまで舌を動かし続ける。
要望に応えた後には、ありがとな、と照れ臭そうにはにかむルフィの笑顔があって、それだけでおれのココロは満たされた。

それが今日はどうだ。

客であるルフィはコックの勧めに耳を貸さず、ひたすら量を求めて食材すべてを喰らい尽くさんとする勢いだ。
味わっているのかすら怪しい速度でただただ暴飲暴食を続けているようにみえる。

(オレばかり気持ち良くして、てめえは一向に良くなっちゃいねぇだろうが…何考えてんだよ)

例えるならば冬眠明けで飢えきった猛獣のように、無我夢中でがっつくルフィにサンジは戸惑い気味だ。その無防備な背中に忍び寄る、二本の腕にさえ咄嗟に気付かぬほどに…。
気配を察知し、ハッと振り返った頃にはサンジはマットに押し倒され、脚の間に滑り込んだルフィによって両太腿を持ち上げられていた。目線の先に自身の局部、二つの小高い丘のその奥に舌舐めずりをして見下ろすルフィの姿。
とんでもない体勢に宙を蹴り上げもがくも、一体その怪我で何処にこんな力があったのかと思うぐらい、ルフィの方が圧倒的に強くピクリとも動かない。
徐々に局部の中心へと近づく吐息。これから何をされるのかはおおよそ想像がつく。だからといってその光景をこんな体勢で直視するなど無理に等しかった。サンジはないよりはマシと、慌てて手のひらで顔を覆った。
視界の情報が失われ、より聴力が強化されたサンジ。ぴちゃりと濡れた音がして、ひくりと身体を震わせる。

いつ、どのタイミングで、どんな風に這わされるのか。

緊張に身を固くするサンジ。しかし思っていた衝撃はなかなか訪れることはない。
考え過ぎだったのかと、サンジが指の隙間からルフィの様子を伺おうとした瞬間、今以上にグッと脚を開かされ、全体重を乗せてきたかのように折り曲げられた。

驚きのあまり咄嗟に手を引いてしまったサンジの目の前に、鼻先があたりそうなほど距離を詰めたルフィがいた。
目を丸くするサンジに、ルフィはフッと息を吹きかけ、


「さっきのサンジの声さ。」



―― すげぇ、キた。


色気がぐっと増した、艶めいた笑みを浮かべてそう囁かれて。
途端に、ゾクリとした大きな疼きに襲われ、身体を折り曲げられ窮屈そうに震えていた自身からどぷりと粘液が溢れた。
重力に従い垂れ落ちる液はサンジの胸元に零れ落ち、テラテラと隠微な輝きを放っている。

「なんだ。イっちまったのか?」
「違…っ、ハァ、ぁあ…」

(ヤバかった…。いまのは、危うくイっちまう所だった…。)

ギリギリの所で踏みとどまったものの急激に引き上げられた絶頂感はなかなかおさまりがつかず、忙しなく肩で呼吸を繰り返しながら涙で滲む視界でルフィの姿を探した。
オレの目を盗んでいつの間にこんなテク身につけてきやがったと怒鳴るつもりだったが、不意に身体を襲った快感に背を仰け反らせた。

「ひッ!こ、こんどは何してっ…」
「零したんだろ?だったら拭わねぇと。」

胸元に垂れた先走りの粘液をわざと指で延ばしてから舌で掬いあげるルフィ。
鎖骨から胸骨の上の程よくついた筋肉をマッサージするかのように動かし、つぷんと胸元を飾る二つの粒を指と舌で押し潰した。
たった今、絶頂を紙一重でやり過ごしたばかりだというのに立て続けに敏感な部分を刺激されてはたまったもんじゃない。

「はっ、や…待て、…る、ひ……んァ、〜ッ!」
「すっげ…どんどん垂れてくる…止まんねぇ。やらしーサンジ」
「い、う…んじゃねー…っ」

片方は乳首を吸われ、片方は乳輪から全体を揉むように愛撫され、サンジはひっきりなしに甘い吐息と嬌声をあげる。
胸元から湧き上がる疼きもまた血流を速め、甘い痺れは開放を求めて身体中を駆け巡る。限界はとうに迎えている。あとは、其処に到達するための許しのみ…。

―― イきたい…。

「ルフィ、…無理、もっ…イか、せて…くれ…はッ、あン、」
「…ガマンできねえ?」
「頭ん中…まっ白、なって、きた……ふっ、ん…つ、つれェ、…なァ、ルフィっ…、」
「いいぞ。全部吐き出せ。」

狂おしいほどの熱に苛まれ、ルフィに助けを請えば窮屈な体制を強いられていた身体がすっと楽になった。
ヨシの合図で、絶頂を迎えることしか考えられなくなったサンジはルフィが目の前にいることも忘れて勃ちあがった自身を掴み、乱暴に擦り上げる。
手持ち無沙汰な片手を先ほどまでねっとりと嬲られていた乳首を抓ればより一層快楽は増した。

ごそりと気配が動いた。
一心不乱で快楽に溺れるサンジの隅々まで眺めようと上体を起こし距離を取ろうとしたルフィ。しかし、その腰に長い足が絡みつきルフィは目を瞠った。
自慰行為に没頭しながらサンジは両脚を巧みに使ってルフィの腰を引き寄せ、まだ一度も触れられていない自身の窄み部分へとテントを張ったルフィの中心部に擦りつけはじめた。
まるで挿れられている時のように腰を振りたくり、猛々しいルフィの雄を刺激する。無意識なのだろうが、恋人のあまりの乱れっぷりにルフィは鼻息を荒くした。

「サンジって結構ヘンタイだったんだな、そんな欲しいのか、コレ」
「はぁァっ!…や、なにか…ふァ、あっあ、云っ、……ぁああ!」
「ん〜ん。なんも云ってねえ。さ、見せてくれ。サンジがイクとこ。」
「あ、ルフィ…ぁ、あっ、イク…、イッ……〜〜っアァっ!!!」

擦るスピードが一気に加速し、背中にグッとチカラが入ってサンジの身体が大きく波打った。
突き上げる衝動に身を震わせるのと同時に放射線を描いて腹の上に散った白濁液。何度も訪れる絶頂感にぼんやりと薄目を開けた。口は半開きのままヨダレの痕が見てとれ、どんよりと濁る瞳はどこを映しているか定かではない。
達した余韻に浸るサンジはキレイだ。ルフィはまだ息の荒いサンジの頬を指の背でそっと撫でた。
途端ピクッと身震いするサンジ。イったばかりで神経が研ぎ澄まされて感じやすくなっているのだろう。

いつもならサンジが回復するまで待ってやるのだが、今日は何故だかそんな気分にはなれない。
まだボーッとしているサンジの顎を掴み、ヨダレの痕を下から上へと追うように口を寄せた。
チュッと音をたて唇を離せば、サンジは目尻に涙を溜め込んだ瞳を此方に向けていた。
何か言いたそうに瞳を揺らすサンジにルフィはなんだ?と問いかける。

「…ル、フィ…」
「ん…?」
「キッチンに、…オイルがある、下の棚…右奥…」

“今、動けそうにねぇから、オレ”

力なく微笑んだサンジに、ルフィは乱れた前髪を梳かしながら任せろと呟いた。
ヨロヨロと操舵を支えに立ち上がるルフィに、今更ながら怪我人相手に何をしてんだろうと熱に侵された頭で思う。

悪化した日にはチョッパーが泣くなこりゃ…。
解っていても最早引っ込みつかない所まで来てしまっている。
ルフィの負うリスクを考慮し、口と手で抜いてやると云っても聴きやしないだろうし、何よりオレが納得しないだろう。
こんな野生的なルフィ、滅多に味わえない。だったらオレも、今この時を愉しみたい。

「…あったぞ、サンジ」
「ん…ルフィ、傷は痛むか?」
「んなの平気だ。それよりサンジのせいでココのが痛ぇ。…触ってみろ」

操舵にもたれ掛かりながらルフィはサンジの手を熱く滾る自身へと導く。
まだ若いながらも充分過ぎる質量を持った其処は、サンジの手が触れた瞬間息づいた。

「ガチガチだろ?」
「あぁ…早く、何とかしてやんねーと、…破裂しちまいそうだな。」

布越しでもわかる恋人の昂り。サンジは誘うように膨らみを一撫でしながらチャックに手をかけた。

《2》