「うぉおおーーーー!
其処行くお嬢すぁああんっ一緒にお茶でもいかがです、くぁあぁああーーっ!
……あぁん…そうですかー、それは残念。また今度ご一緒してくださいねぇ〜〜〜!」
キュッと引き締まった美しいボディラインを見えなくなるまで拝んだ後、気持ちを切り替え、新たな美女を求め周りを見渡してみる。
だが探すまでもなく、次々に自分の理想に適った女性達に目が留まる。まさに天国、美女万歳!
「いやー、ココの女の子達は粒ぞろいだなぁっ!
どの子に声かけようか……
…って、
あそこに居んの、ルフィじゃねェか」
我が船の船長を視界に捉えた瞬間、常時ハート型に変形していた瞳が戻る。マズい相手と出くわしたものだと、胸ポケットから一本タバコを取り出し手馴れた手つきで火をつけた。
「一応、俺は買出しに出てるはずなわけだしなー…。こんなトコ見られた日には」
しつこく追い咎められ、対応に困る自分の姿が安易に想像できる。上機嫌だった気分が自然と下降していく。
別に自分は悪い事をしているわけではない、はずだ。
食料の買出しと路銀稼ぎの目星をつけ一路船へと戻ろうとしていた途中、本屋の前でなにやら困っている様子の船医に会って。欲しい本があったのだが、人前でいきなり人型になったら周りを驚かせてしまうんじゃないか、と涙目で語る船医を宥めて。それならばと船医の代わりに自分がレジに並んでやって。大層喜ばれ、お礼に買った食材を船に運んでおいてやるといわれてその気持ちを快く受けとって。
そう。これは偶然。たまたま出来たフリータイムなのだ。その時間に何処で何をしていようが自分の勝手というものだ。
そう思う反面、彼の意に反して脳裏では4日前の出来事が蘇る…。
意外だった。ルフィはそういった気持ちに鈍感、というか興味がないのだとおもっていたから。だってまだガキだし、サルだし。
だから最初は冗談だとおもって軽く受け流した。あまりに引っ張るから笑って済まそうとした。けど、アイツが本気なのだと気付くに時間はかからなかった。
一方的に好きだといわれ。
キスがしたい、あわよくば身体の繋がりも欲しいと。
そういう意味の好きだと、ルフィは嫌というほど、繰り返し繰り返し、想いの丈をぶつけてきた。露骨な表現も、直球的なルフィらしいといえば、彼らしい。
男というその時点で俺の選択肢はないはずだったのに。
コイツとなら、ルフィとならそういうカタチも有り得るかもしれない、と…。
ほんの少しでも許容してしまったのがまずかったんだ。
あの時のルフィの至極嬉しそうな笑顔が頭から離れない。
「軽々しく返事をするべきじゃなかっただろうに…何流されてんだよ、俺…」
中心街の通りを進むルフィの横顔を、サンジは近くの店の壁に寄りかかって暫しルフィの容姿を観察してみた。
(顔は…黙ってりゃ、悪くないよな。口開くとまんまガキだから普段あんま気付かねェんだけど。)
(左頬の傷、あれが結構ポイント高ェんだよ。子どもっぽい所へちょっとワイルド要素が混じってるっていうか。…おもえば戦ってる時の表情って、かなり男前っつーか…。元は良いんだよな、うん。)
(それにアイツの瞳。目力ハンパねェんだよ。あの瞳を前にすると何でも許しちまいそうになる…。うわ、完全に流されてんな俺)
(こんなんだからあの時も微妙な返事しちまったんだろうな。
…それにしてもアイツ何処行くんだ?)
逸らされない視線を見る限り、目的をもって何処かへ向かっているらしい。先を追うと、チャラそうな男と美女二人組がなにやら揉めていた。
(なんだァあのブ男は!完っ全に彼女達 嫌がってんだろうが…!)
ここは一つ、恋の狩人サンジ様が――と、意気揚々と乗り込む前にルフィがそのブ男の手首を掴みあげた。
「見て分かんねェか。こいつら困ってんぞ」
ルフィはそのまま男の手首を軽く捻り、イタタタと顔を歪めた男はルフィの手を振り払って慌てて逃げていった。
サンジはその様子を珍しそうに見守る。
ルフィはあれで割りと排他的なのだ。自分が信用した相手には惜しげなく表情豊かに接し、相手の痛みや苦痛を分かち合おうとするし、助けもする。
が、興味がそそられない相手に対しては本当に無関心なのだ。
其処までルフィを引き付ける何かが彼女達にあるのだろうか?
「確かに美女には違いねェけどな…」
絡まれていたところを助けていただきどうも有難う御座います、とさり気なく上目遣いで言う女性の一人に、ルフィは気にすんな、と気持ちの良い笑顔で返した。
そんなルフィに女性達が頬をほんのりと色付かせたのをサンジは見逃さなかった。
(天然タラシってアイツのことをいうんだよなー…)
望むと望まざるにかかわらず、ルフィはとにかくモテやすい。誰彼構わず引き付ける力を持っている。一体何処にそんな魅力要素があるのだろうか…。
「あの…、良ければお礼させてくれませんか?」
「ここからちょっと行ったトコに美味しいケーキを出してくれるお店があるんです」
こんなにも美しいレディ達にお誘いされちゃったら、俺なら喜んで着いていっちゃうよぉおお!!羨ましい、羨ましすぎるぞルフィィイイイ!!
ゴォゴォと湧き上がるルフィへの嫉妬心。が、サンジはふと我に返った。
(あれ、そういえば俺いつのまにこんな声が届くくらい近くにきてたんだ…?)
ルフィ達と自分との距離は先ほどよりもかなり狭まっていて。
ルフィは此方に背を向けているから気付かれることはないだろうが、この距離は危険だ。
何処か隠れられそうな物陰を探して目を離した瞬間
「おう、いいぞ。」
ルフィの口から思わぬ回答が聞こえてきて耳を疑った。
隠れようとしていたことすら頭の中から吹っ飛んでしまったらしく、サンジはその場で棒立ちになってしまう。
(い、いやまぁ、あれだろ。ケーキに釣られたんだろう?
美味しいケーキとか、食欲魔人なコイツが逃すはずねェし。
ルフィの誘い方を心得てるな、お嬢さん達。)
が。
(…アイツ、俺を好きだっつったよな…?)
…いや、そもそもコレが“そういうお誘い”だと気付いてないんだろう。
ルフィは単純にケーキが食べたいだけ。だが、彼女達はそんなルフィに多少気があるワケで。
ルフィにはその気はない。ないだろ。…ない、よな?
嬉しそうな彼女達に挟まれてルフィは案内されるままに着いていく。
「…両手に華とか、何羨ましいことしてんだよルフィ…」
恨めしげに呟かれたサンジの声は、ルフィの背に届くことはなかった。