(で、俺は何やってんだ?)
おしゃれなオープンテラス風の喫茶店。穏やかな日差しの中、両手に持ったケーキをガツガツと掻きこむルフィの姿があった。そのルフィを挟んで座る女性達は、ルフィの豪快すぎる食べ方にあっけに取られているようだが、ウマイウマイと笑顔を絶やさないルフィに満更悪い気はしないらしく、場はとても和やかだ。
反面、俺はストローの端をがしがし噛みながらその様子を遠目の席から伺っているわけで。
(何コレ、俺めちゃくちゃ寂しいヤツじゃね?周りカップルばっかじゃねーか。)
「ていうか、何で俺追いかけてんだ?ルフィのヤツが何処で何しようと勝手なわけで、アイツが誰とデートしてようが俺には関係ね……」
関係ない、のだろうか?
自分は4日前、確かにアイツに告白された。曖昧ではあるが、俺もそれに応えた。そりゃ多少流された感はあるが、まったく気がなかったわけじゃない。俺もあの時気付かされたばかりだが、ルフィの事は嫌いじゃないんだ。
「…買出しン時にちょっと冷たくあしらいすぎたか…?」
すっかり歯形が残ってしまったストローの先端をくわえたまま、数時間前のルフィを思い返す。船からだいぶ離れてから一度だけ振り返ったとき、ルフィはしょんぼりと肩を落としていたっけか。
一緒に着いてきたいと言ったのは、単純に考えれば自身の好物である肉を大量に買ってもらおうという魂胆から。だが、ルフィが俺を好きだと宣言した直後の行動だったというコトを踏まえて深読みしてみれば。
(買い物の付き添い、二人で出かける イコール デートがしたい。
…そういう意味だったのかもしれねェな)
ルフィが俺とデートしたいから声をかけてきた。そして俺はルフィの心中を知らないまま、トラブル常習犯だからと誘いを蹴ったことになる。あの時いつも以上に落ち込んでいた理由が今ハッキリとした。
だが。
「傷ついたからって、告ったお前が真っ先に目移りすんなよ…」
氷しか残っていないグラスからズズッと、行儀の悪い音が鳴る。視線の先には頬袋をパンパンにしながらケーキを頬張るルフィと、その頬を楽しげに突いているレディ達。
ふと右側に座っていたレディがおもむろにテーブルに常備された紙ナプキンを取り、ルフィの口元についたクリームをそっと拭い去った。
柔らかく微笑むレディと、されるがままのルフィ…それはまるで仲睦まじいカップルそのもので………
「・・・。」
――あ、もうこれ無理だ。
見てらんねェ。
そう頭が判断する前に、身体が勝手に行動を起こしていた。
「ちょ、サンジ何すん…ぎゃあぁああああ!!!!」
ルフィの悲痛な叫びにハッとした。
いつのまにか、目の前には何処か覚束ない足取りのルフィが居て。レディ達は口元に手を当て大層驚いた様子で。
(お、俺・・何やった??)
直ぐには思い出せないほど、無意識だったらしい。たが、崩れたテーブルに割れたカップ。周囲のどよめきからして、自分は相当大事をやらかしてしまったらしい。
とにかくココは…
「す、すすすみませんレディ達っ!これっ、ウチのなんで引き取っていきますね!?
そそそれではまた何処かでーーーっ!!!」
逃げるしかねェだろ!?!!
これまたいつのまにか握り締めていたルフィの手首を引っ張りそのままサンジは全速力でどよめきのあがる群集の合間を縫うように逃げるのだった。
そのスピードは流石、足が自慢の戦うコックさん。ポカンと呆けていた店員が「く、食い逃げだー!」と叫ぶ頃には、彼等の姿は見えなくなっていた…。