追い風、帆を抱く 4





「ハァ…っ、ハァっ…!!
あー、クソッ、何やってんだ俺はよォ…!」

街の中を闇雲に走った所為で息の上がったサンジ、自分のわけの分からない行動に苛立っていた。トラブルの目であるルフィの前で、まさか自分が問題を起こす羽目になるとは…これではルフィのことをトラブル製造機なんて呼べないじゃないか。

「だぁ〜…サンジぃ〜
いい加減おでのしんばいしてくれよぉ〜」
「…ん?
ってルフィ!?お前なんでそんなボロッボロなんだっ!?!!」
「サンジが俺の手首掴んだまま引き摺った所為だろォ〜〜…」
「あ。…わ、わりィ」

そういえば自分はルフィの手首を握ったままで、何故だかフラフラしていたんだった。
あの状態で駆け出せば、コイツは体勢を直す暇なんてなかったのだろう。
ボロ雑巾よりかは幾分マシなルフィの手首を離してやると、力なくぱたりと腕が落ちてルフィはその場で伸びてしまった。

「お、おぃ大丈夫かルフィっ!!?」
「おぅ、平気だぞォ?」
「本当かよ…」

俺ゴム人間だから痛くねェけど、右へ左へ振り回した所為で少々酔った と、ルフィは屈託のない笑みで応えた
その様子にホッとしたサンジは、どうしてこんな事になったのかルフィに尋ねることにした

「サンジ、覚えてねェのか?」
「それが全然。まったく覚えがねェんだ。…俺、何した?」

サンジがそういうとルフィは可笑しそうにしししと笑ってから、あの時の状況を語りだした。

つまりは。
彼女達とケーキを食べながらお喋りしていたらいきなりサンジが現れて、ガシっと手首を掴まれ立たされたとおもった矢先、背中に強い衝撃を受けて吹っ飛んだらしい。
ルフィはゴム人間なので、身体の何処かを掴まれていればゴムの戻ろうとする反動によって吹っ飛んだ身体は手首を掴んだままのサンジの元に戻ってくる。
そして跳ね返ってきたところをまた反対側に蹴り飛ばされ、数回それが繰り返された後、急にサンジの動きが止まった、と。


「・・・。」
「右へ左へ飛ばされて大変だったぞー
店のものは壊れるし、壁にも穴開けちまったし
まぁ逃げてきちまったから、もうどうしようもねェけどな!」

それはそれは楽しそうに高笑いするルフィを尻目に、サンジは両手を地面について身を縮こませた。

(オイオイオイオイ…
俺なにやってんだよマジでっ!!問題だけは起こすなってナミさんに散々言われてたってのにっ…!まだログポースが溜まるまで1,2日あるっていってたのに初日から問題起こしちまったァあああ…!!
ごめんなさいナミさん、ごめんなさいロビンちゃん。
不出来な俺を許してェエエエ!!!)

懺悔である。怒らせたら相当に恐ろしい航海士へ向けられた懺悔の念が禍々しいオーラとなって漂う。サンジが後悔に押しつぶされそうになっている間に復活したルフィは、小首を傾げてまた面白いことをしているサンジに笑いかけた

「サンジ、腹減ったのか?」
「テメェはこの全世界の不幸を一身に背負ったような俺の様子みて、言うコトはそれかっ!?」

テメェじゃねェんだからねェよ!!とくわっと起き上がるサンジにルフィはそっか。と嬉しそうに言った。
そういえば、ルフィの機嫌がやたらといいような気がする。さっきからニコニコと笑顔を絶やさないし…

「テメェ、何でそんなに楽しそうなんだよ」
「え、だってサンジが居るから」
「っ…!?」
「ししし、サンジと二人っきりだぞ!これが嬉しくないわけねェだろ?」
「…おまっ、いや…そういうコトは、そうハッキリというもんじゃ」
「何でだ?俺は最初っからサンジと居たかったんだぞ?けどサンジが買出しついてくんなって言うから我慢したんだ。でも街で会えて、今は一緒にいるんだぞ?偶然ってすっげぇな!」

いや、偶然でもなんでもないんですけど…とは流石に言えなかった。
何故ならあまりにもルフィが幸せそうに言うもんだから。そんなに俺と一緒に居たかったのかと、そんだけのことで、お前はそんなにも幸せなのか、と。

(…悪い気、しねェんだよな…コイツの、そういう真っ直ぐさはよォ…)


「…サンジ?」
「あ、いや…なんでもねェよ」
「そっか。あ、サンジ!
もう買出し終わったのか?」
「あぁ、終わってるよ」
「ならこれからどっか行こう?ウマイ出店探し回ろう?!」
「無理。あんだけ街中騒がせちまったんだ、戻るに戻れねェだろ」
「えぇーーーっ」
「…その代わり、これから船戻ったら俺が街で買った食材で、めちゃくちゃうめェ料理食わせてやる。」
「え、本当かっ!?!!
肉っ、肉食わせてくれるかっ!?」
「いいぜ、なんでもリクエストしろよ」

ヤッタァー!と叫びながら胴に巻きついてくる腕。
背中に張り付いた船長の頭をぽんぽんと撫でるサンジの表情は和らいでいた。
そしてルフィには聞こえないであろう小声でぽつりと


「今日だけ、特別な…?」


呟き、サンジは張り付いたままのルフィを背負って港へと歩き出した


「ん、サンジ今なんか言ったかぁ?」
「重ェよクソゴムっつったんだよ、分かったらさっさと降りろ!」



今度新しい島に上陸した時は一緒に出かけてみようか。

コイツと居たら、きっと退屈だけはしないだろう。


「あと10秒以内に降りねェと野菜料理のみのリクエストにすんぞ」
「えぇえええーっ!!そりゃねェよサンジィイ〜〜っ」




――ま、
絶対ェ俺からは誘ったりしねェがなっ





END

《4》