アンティークに愛されて 5





「ルフィさん、」
「お、ビビじゃん!また会ったなっ」
「えぇ、…本当に。また、この場所で会うとは思ってなかったわ」

空色の艶めく長い髪色を靡かせた美しい彼女、名をビビという。
大学での授業を終えて帰路につく途中、彼女は大学近くにある国立図書館へと立ち寄るのを日課としているのだが、ここ最近その場所で思いもかけない人物と頻繁に遭遇するようになってからというものの、ビビの困惑は日増しに強まるばかりだった。

“なぜ、勉強嫌いを日頃から主張し続けるルフィさんが図書館なんかに居るんだろう…??”

ビビとルフィは大学で知り合った友人同士である。
勝手知ったる相手なのだから、本人に直接問いかけてみればいいと思うものの…。

「うーーーーん。これじゃねぇ。…じゃあこれ…でもねぇな。」

彼には似つかわしくないほど一心不乱に分厚い書物を見漁っている姿に、声をかけるキッカケが掴めなくて遠巻きから彼の様子を伺う日々が続いているのだ。
だがいい加減彼の異常な行動の意図をどうしても知りたくなって、彼女はとうとう行動にでることにした。先日訪れた時に途中読みだった書物を片手に、さり気なくルフィの隣へと腰掛けた。手に持った本を読んでいるフリをしながら、ルフィを囲むように山積みにされた本のタイトルを次々覗き見る。

古いものから最新の書物まで年代はさまざまではあったが、とある共通項を見出したビビはそっと椅子を引いてルフィとの距離を詰めてみた。

「ルフィさん…“骨董”に興味があるの?」
「んん?
…んーーー、そーいうワケじゃ、ねーんだけど……」

珍しく煮え切らない返答を返してきたルフィに、ビビは申し訳なさそうに眉を寄せる。

「…ゴメンなさい。邪魔しちゃったかしら?」
「??全然問題ねーぞ?
どんだけ捜しても見つかんなくてむしろ行き詰ってたトコだ!」
「そう、だったら良かったわ!」

ニカッと歯をみせ笑うルフィに、ビビも同じように微笑みを浮かべて応えた。
自然な流れで接触に成功したビビは、すかさず本のタイトルを指差してルフィに訊ねてみた。

「でもこれ、全て骨董品関係の本よね?随分と古い書物も紛れているみたいだし……」
「そうそう!そうなんだよぉ〜、開くたびにホコリがすげぇんだよなぁ〜…」
「…さっき、これじゃないとか、あれじゃないとか…調べ物をしているような雰囲気だったけど?」
「んあぁ。調べておきたいアンティークがあるんだ。そいつが載った本をいま探してるトコだ」

そういって再び年代物の骨董品の写真やイラストが並ぶ紙面に目を通し始めたルフィの横顔は真剣そのもので。
こんなにも一つのモノに執着してみせるルフィの姿をあまり目にしたことがない彼女は、少し考え耽るように俯いてからふっと顔をあげルフィの肩をそっと叩いた。
難しい顔をしたまま顔をあげたルフィに、ビビは表情を和らげた。

「力になれるかどうか分からないけど、良ければ詳しい話を聞かせてもらえないかしら?」
「ん??なんでだ?」
「私の父、コレクターとまではいかないのだけど多少骨董の知識があるの。もしかしたらルフィさんが捜してるものを、知っているかもしれないわ」
「本当かっ!!!!」

ガタンと盛大に椅子を揺らして立ち上がったルフィに、周囲は人差し指を立てて“静かにしろ”と訴えかけてくる。
図書館なのだから当たり前なのだが、急激にテンションのあがったルフィが周囲の迷惑など気に留めるわけもない。
興奮気味のままビビの片手を掴み取り、細くて小さいその手をぎゅっと両手で握り締めた。これには思わずビビも表情を赤らめてしまう。

「ちょちょ、ルフィさん!?」
「ありがとうビビ!!!!オメェにはホンっト世話になりっぱなしだなっ!!!!本当にありがとうっ!すげぇ助かるっ!!!!」
「いい、いいのよルフィさんっ…それよりもっ、場所がっ…」

周りからの痛い視線をグサグサと浴びながらビビはアタフタと周囲を見渡した。
が、ルフィは構いやしないといった様子で“じゃあ早速、頼む!”と素早く自分とビビの荷物を肩に引っ掛け彼女の手首を掴んだまま勢いよく駆け出した。

「待ってルフィさん!本、片付けないとっ」
「そんなん気にすんな!!!」
「気にするわよぉーーっ!!!!」

彼女の叫びも虚しく、ルフィはビビを引きずっていくような形で慌しく図書館の外へと飛び出していった。
後に残されたカビ臭いニオイを充満させる書籍の山は、音をたてて崩れていった…。


-*-*-


「“目玉が飛び出るぐれェ高いアンティーク”を、…捜しているのね……」
「おお、そうだ!」

図書館から程近い位置にある喫茶店に拉致られてしまったビビは、注文で届いたアイスティーに口をつけながらガックリと肩を落としたのだった。
探し物をしているというわりにはルフィからもたらされた情報はなんともアバウトすぎていたのだ。そんなどう転んでも目的のものに辿り着けそうもない情報だけを頼りにしていたルフィにも驚かされる。
…いやもうこれは驚きを通り越して、なんだかひどく悲しくなってきた。

「も、もう少し…具体的な…っほら!ティーカップとか、壷とか…色々あるでしょ?!」
「あー、確か…おれの手元にあるティーカップ以外にあと7人居るっていってた。」
「7…“人”???」
「それ以上のことは詳しく訊いてねぇんだ。
おれが調べてること、サンジには内緒にしてんだ!ししっ」
「…“さんじ”??????」

はて、ルフィさんの交友関係にそんな名前の人居たかしら?とビビは首を傾げた。
ルフィとビビの共通な友達の中にそのような名前は聞いたことがなかった。しかし、相手は友達作りにかけては天才的な才能を持っているルフィなので、知らぬ間に増えていたとしても別段不思議がることはないのだが…。
そうビビが結論付けようとしていた矢先、次いでルフィの口から出た言葉にビビは仰天することとなる。

「あ、サンジってのはそのティーカップの名前な?
そんで、おれが知りてーのはサンジの仲間のことなんだよ…。
捜すにしてもまずはサンジの仲間達が一体どんな恰好してんのか知っとかねーと、おれじゃ気付かねーかもしんねーもんなァ…」

…あれ?と。
ビビの頭上に大量のクエスチョンマークが羽ばたいた瞬間だった。

骨董品の話をしているはずなのに、なぜだろう…まるで、第三者の話をしているような台詞がちらほらと飛び出してくるのだ。それも一人ではなく、複数人いるような口ぶりで。ビビはルフィの言葉をすぐには理解できなかった。
が、しかし、当のルフィは極当たり前のようなカンジで説明を続けているものだから、あぁ、そういうことなのね。と納得させられる雰囲気が…

「って無理っ!!納得できるかぁぁっ!!!」
「び、ビビ!?」

思わず大声をあげてしまったビビは、ハッと気付いたように頬を染め、ゴメンなさいと小さく謝った。
恥ずかしそうに身を縮ませてしまったビビにルフィは“あ。”と何かに気付いたような間抜けな声をだして、ビビを覗き込んだ。

「わりぃビビ。これじゃ何も伝わんなかったよな?」
「そ、そうねルフィさん…できれば最初から順立てて説明し」
「サンジはなー、金髪で足が長くて、何故か眉毛がぐるんと円描いててダーツみてぇになってんだ。性格はすげぇ怒りやすくてしょっちゅう怒鳴ってるんだけど、案外優しいトコもあって、そんでもって面白ェヤツなんだ!」
「え、それも割りとどうでもいいかもしれない……」

・・・自分から申し出てみたものの、本当に彼の力になれるんだろうか?
ビビは先行きに不安を感じずにはいられなかった。


-*-*-


「じゃあ、ルフィさんが今調べようとしているアンティークシリーズの一種であるティーカップの中に“サンジ”さんという名前の精霊が住んでいて、
彼の他にももう7体同じように精霊が宿った骨董品があって……」
「そうだ、おれはそれをぜんぶ集めてぇんだ。」

彼の曖昧な説明をビビなりに解釈してから数十分後、ようやく明確となってきたルフィの目的。
聞けば聞くほど、クエスチョンマークが踊る脳裏を無理矢理納得させながらもルフィの話に耳を傾け続けてきたが、正直なところ精霊がどうのこうのの辺りはまったく信じられなかった。
いくら友人であるルフィの言葉だったとしても、到底すぐに信じられるような話ではない。

しかし…

「サンジは、仲間に会いてぇんだ。
ただそれだけをずっと願ってきた。おれやビビが産まれてくるよりも、もっともっと昔から…。
けどアイツは人間じゃなく、物だ…。自分の意思で自由に行動できねぇ…。それが悔しくて、サンジはずっとずっと、苦しんできた。」

“サンジ”という名の精霊のことを語るルフィの瞳が、とても優しく、澄んでいて。
その精霊のことを、とても深く大切に想っていることが痛いほど伝わってきた。

「もう二度と仲間に会えねぇんだって決め付けちまってるサンジを見てると、思うんだ。
何がなんでも、サンジを仲間達に再会させてやりてぇ…。サンジが心の底から喜ぶ顔を、見てみてぇんだ…」

きっとその精霊のことを思い出しているのだろう。
やんわりと孤を描いて優しい眼差しにかわったルフィの瞳に、ビビは一間置いてから決心したように口を開いた。

「でも、ルフィさん…。
本当に彼の仲間を捜す気持ちがあるのならその彼にも協力してもらわないといけないと思うの。
秘密にしておいて驚かせたいというルフィさんの気持ちも分からなくもないけど、今は少しでも多くの情報が必要じゃないかしら?」


―― 信じる信じないは、今は考えないことにした。ただ、私は、ルフィさんの力になれればいい。


・・・ほんの少し前まで…ビビは辛く苦しい毎日を過ごしていた。
企業家として名の知れていたビビの父親、ネフェルタリ・コブラを敵視する対抗勢力があった。彼等は企業家として優れた能力を持ち人望にも厚いコブラを目障りとして、あくどい手口で潰そうと画策していた。そして、その主な標的とされたのが彼の一人娘であるビビだった。
彼等は大学側に手を回して一部の教授や生徒を買収し、悪質な精神的圧迫をビビに与えることで娘思いのコブラを揺さぶろうと考えたのだ。
偶然ビビが対抗勢力の目論みを知った後も、ビビは父に迷惑はかけられないと口を噤む事を選んだ。誰にも相談出来ず、助けを求めることもできない毎日。日々続く嫌がらせの数々に、彼女の精神は蝕まれ続けていった。

表向きはいつもと変わらず、それでも心は憔悴しきっていた彼女の前に現れたのがルフィだった。淀みない、ルフィの眩しい笑顔が彼女に向けられた瞬間、不思議なことにこれまで堪えていた痛みが一気にあふれ出してしまったのだ。
ルフィは突如泣き出したビビに慌てふためいたものの、ビビの思いをすべて聞き出した彼は、彼女の手をとってこう言ったのだ。
“もう大丈夫だ。おまえはもうおれの仲間だから、何があってもおれが守ってやる”と。
この言葉に、どれほど救われたことだろう…。彼がいなければ、今の自分はなかったかもしれないと思えるほどに。


ビビがアイスティーを片手にかつての記憶を思い返していると、その向かいでルフィはうーんと首を左右に捻っては、難しい顔をして唸っていた。

「そう、思うか?」
「……えぇ。せめてそのティーカップの彼以外の骨董品達の特徴とか。一番いいのはシリーズの総称が分かるといいのだけど…。
おそらく、目玉が飛び出てしまうほどの価値のある作品ならばあってもおかしくないとおもうの。」
「そっか。…そうだよな!ヘンに意地張ることねぇんだよなっ!
おれの目的はただ一つ。サンジの仲間達を見つけて、すべて集めることなんだもんなっ!」

じゃあ、今日にでもさっそくサンジに訊いてみよう!と、ルフィは明るい顔で返した。
ぎゅっと握られた拳からは、彼の想いが本物であることを伝えてくる。

そんな価値の高いアンティーク品を、あと7体も集めないといけないなんて、と考えた瞬間、ふとビビはあることに気付いたのだった。

「もしかしてルフィさん…この前、新しいアルバイトを捜していたのは…」
「んーーーー?…ん…まぁ、な。
いまのうちから金貯めておかねーと、全部集めんのは厳しいんじゃねーかな…ってさっ」

この後も駅ビルの清掃のバイトがあるからと、ルフィはごそごそと帰り支度を整え始めた。
お金を貯めたいと、求人雑誌を前に頭を悩ませていたルフィにそのバイトを紹介したのもビビだった。そこのビルの経営者が父に縁がある方だったので、いくつものバイトを掛け持ちしているルフィを何とか受け入れてもらえないかとお願いしたのだ。
ビビはそうして、常にルフィの力になろうと努めるのだ。すべては、あの時の恩を返そうという気持ちから…。

「ビビには助けられてばっかだ。バイトの事もビビが口添えしてくれなかったらOK貰えなかっただろうし…」
「それは父の顔が利く所だったからってだけよ、私にはまだ何の力もないわ。・・・それに、助けてもらったのは私の方。」
「…まだ気にしてんのか、それ。」
「ふふ、しょうがないじゃない。ルフィさんは私の命の恩人よ?」
「そりゃいくらなんでも大袈裟だぞ?」

ビビにとっては大袈裟でもなんでもなかったのだが、それでもルフィは複雑そうに首を傾げる。
ルフィやルフィの友人達が自分を守ってくれたお蔭でビビは救われた。だからお礼がしたいと申し出たのに何の見返りを求めなかったルフィに対して、だったら彼女は自分が出来ることで彼に応えようと心に誓ったのだ。
ビビだけじゃない。事の真相を後から知ることとなった彼女の父、コブラも…彼女を取り囲むように存在する多くの者達も。

ルフィには感謝しきれないほどの恩があるのだから。

「あのよぉ、気持ちは嬉しいけど…もう十分恩は返してもらってっから、ホント気にすんなよ?」
「私がまだし足りないの。だからいくらルフィさんが嫌がったとしても、もう少し付き合ってもらうつもり。」
「むーーー、困ったな〜〜…」

ぽりぽりと後ろ髪を掻いたルフィを、ビビは楽しげに笑って返す。
こんな風に笑顔を取り戻すことができたのも、すべてルフィさんに出会えたお蔭なのだから、と心の中で呟いて…。


「ルフィさん、お仕事頑張ってね」
「おぉ!あんがとなビビっ!サンジから話聞けたら一番最初にオマエに話すから、そんときゃ宜しく頼む!」
「えぇ、楽しみに待ってるわ!」

後ろを振り返ったまま大手を振って遠ざかっていくルフィ。
少し前の彼は帰り道になるとしょんぼりと肩を落としてした。一人きりになってしまう家はつまらないといつも愚痴を零しながら…。
ここ最近そんな彼の寂しげな姿を見なくなったことを不思議に思ってはいたが、今日彼から聞いた話が真実なのだとすれば、合点がいく。

もう一人きりの家じゃなくなったから、あんなにもいきいきとしていて、楽しそうなんだ…。

「なんだか…少し妬けちゃうな」

ルフィの背中が見えなくなった所で、ようやく踵を返したビビ。
暮れる夕焼けを見つめながらほんの少しの物悲しさを覚えつつ…彼女は静かに帰路へとつくのだった。


-*-*-


『オレの事を訊きたい…のか?』
「おお、そうだ」

バイトを終えて帰ってきたルフィは挨拶も早々にティーカップをサイドテーブルの上から移動させ、ちゃぶ台の中心へとデンと置いたのだった。
ルフィの行動についていけず口をポカンとあけたまま呆けているサンジに、ルフィはニコリと笑いかけてからビビにアドバイスされた通りの質問を投げかけたのだ。

突如、自分の事を知りたいと言い出したルフィにサンジはそっと顔を伏せた。
ちらりと上目遣いにルフィを伺うその頬は薄く朱色に染まっている、…ようは照れているのだ。

『知って、どうすんだよ』
「んん、だってサンジ達のコトを知ってねぇと捜せねぇだろ…?」
『…オレ“達”?』
「おお、サンジ達。仲間達のことな?」
『・・・・・。はぁーーー。』

喜んで損した…と、心の中でぼやくサンジ。
当のルフィはといえば、サンジ以外の精霊達の話が聞けるとあって目をキラキラと輝かせていて。
自分の事を気に掛けてもらえたと一時喜ばせておいて、遠まわしにオマエの勘違いだと言い放たれたサンジのテンションは急激に降下したわけだが。

こんなのも興味津々なルフィの期待を裏切るような真似はしたくなかったから…。

『“Straw Hat Crew”』
「・・・?なんだって?」
『“Straw Hat Crew”…それが、オレを含めた8体の骨董品の総称になる。訳すと“麦わら一味”だったか。』
「おお!それすっげぇ情報じゃんか!えっと・・すとろ・・はっ、と・・・くる・・」
『…スペル間違ってるぞ。rの次はaだ、oじゃない』
「あれそうなのか?」

お世辞にも綺麗とはいえない筆跡にサンジがあきれた表情を見せる中、ルフィはサンジの言葉を一字一句も漏らすまいと真剣にメモ帳に書き写している。
チラと、その様子を見上げたサンジ。いつになく凛々しい表情を見せるルフィに、おもわずトクンと胸を高鳴らせてしまった。
見惚れてしまいそうになったサンジは、ルフィに聴こえないよう小さく咳払いをしてから続きを話はじめた。

『…それからオレ達には“あざな”がついてる』
「あざな?」
『ニックネームのコトだ、…まぁ、オレ達の場合、“役割”って言った方が正しいかもしれない』
「ふむふむ。」
『オレのあざなは“コック”、言葉どおり、料理人ってコトだな』
「料理人かぁ!いいな料理人!うめぇ飯食い放題だっ」
『作ってやりてーとこだが、オレァ一度も料理なんてしたことねーぞ?精霊だしな』

それから…と、サンジは仲間の“あざな”と、彼等の骨董品の特徴を一つ一つ順番に説明した。
仲間の話となるとやはりサンジの気分も明るくなるようで、嬉しそうに話していたかとおもえば急にムスっとした表情をみせたり、凄くどうでもいいような表情をしてみせたりする。
コロコロとテンションが変わるサンジをルフィはおもしれェー!と笑い、そして語られるサンジの話には真剣に耳を傾け、メモを取り続けた。

サンジから聞いた情報を漏らさず書き記したルフィは、ペンを横に置いた後メモ帳を掲げ、突如、うひょーーっ!と奇声をあげた。

「これがサンジの“仲間”かーーーっ!早く会いてェなーっ、楽しみだなぁーっ!!
明日さっそくビビに教えてやんねーとっ♪」
『…ビビ??』

サンジにとって初めてきいた名前に、眉根がピクリと反応してみせた。

「あぁ、ビビな!おれの友達だ。イイヤツなんだぞー??サンジの話したら協力してくれるってさっ!!」
『男か…?それとも、レディか…?』
「れでぃ…?女だけど・・・どうした?急に難しい顔して…」

まぁ訊かなくても名前からして大体予想がついていたが、尋ね返さずにはいられなかったのだ。
女性と聞いた途端、サンジの表情はみるみるうちに浮かないものへと変化していく。

(こんな野生のサルみてぇなヤツでも、性格がコレだから…どうせモテんだろうな…)

根っからの女性主義者だったはずの自分を、こともあっさりと落としてしまったほどの野郎だ。ルフィ自体に気がないとしても、天然タラシって可能性は十分に在り得るだろう。
バイトの話や学校での話は割りと聞かされていたが、ルフィの交友関係についてまではまだ突き詰めて尋ねてみたことがなかった。友達が多いとは言っていたが、男女比でいえばどのぐらい女友達がいるのだろうか??

(…大切な相手とか…、いるんだろうか…?)

「サンジぃーっ、またどっか行っちまってるぞ??戻ってこーいっ!!」
『…何処も行ってねぇよ!!ココに居んだろうがっ!!!!』
「お、戻ってきた。」
『それよりルフィ、今すぐ茶持ってこい!そんで飲めっ!!』
「・・・へッ???」

ポカンと呆けたルフィを大声を張り上げて追い立てるサンジ。
何がなんだか分かってない風だが、それでも言われた通り冷蔵庫へとまっすく向かっていくルフィの背中を、サンジは物言いたげにじっと見つめるのだった。


本当は知りたい癖に、ルフィから返ってくる答えを聞きたくなくて。

―― 精霊が、人間に、恋をする。


いよいよもって何を馬鹿げたことを、とせせら笑う余裕すら無くしたサンジ。
今はただあと数秒後にやってくるその一瞬を大切にしようと、そのときを待って静かに瞼を閉じるのだった・・・。

《5》

ルフィの同級生としてビビが登場。ここから先はルフィを取り囲む大学の友人や親しい人が色々と絡んできます。
ちなみにビビはルフィに好意は持っていますが、恋愛感情には至っていません。