その前兆は、突然やってくる。
呑まれたな…、と気付く頃にはもう手遅れで。
いつ戻るかも分からないソイツからの連絡を待ち続ける俺がいた。
短くて半日。
酷いときは3週間経って戻ってきた事もあった。
初めてルフィが姿を消した日の事は今でも記憶に残っている。
俺に気があると言った彼女は、俺達のただならぬ関係とやらを察知していたらしい。
不潔だわ、最低。
と彼女は散々ルフィを罵る。謝罪も弁解もなくただ一方的に蔑まれるルフィ。そんな態度が気に障ったのだろう、終いには手をあげようとした彼女にそのときようやく二人の間に入って仲裁したのだ。
その頃からだ。
ルフィが突然行方をくらますようになったのは。
真っ黒な瞳はどんよりと濁り、焦点は定まらないまま。
それが予兆。完全に呑まれたら最後、ルフィは行く宛があるわけでもなく外へと飛び出していってしまう。
昨今、GPSなんてものを搭載した携帯電話機の普及によって早期発見の率が格段にあがり、彼を慕うもの達はホッと胸をなで下ろしたものだ…。
が、いくらすぐに見つけられるようになったとしても、問題は解決したことにはならない。急に消えては見つかり、そしてまた何処かへ行ってしまう。
カウンセリングの結果、ルフィのそれは本人に自覚症状が見られたため、精神的な病ではないと診断された。
“放浪癖”
あえてルフィの奇怪な行動に名をつけるとするならば。
けれども、そんなものは何の慰めにもなりゃしない。
「…もう3年も行方知れずなんだぞ。」
「…知ってるよテメェに云われなくとも。」
「このままじゃ、ルフィも…テメェも救われねェ。
…届け出を」
「うるせぇ!」
――大学生となった初めての春、目の前に開かれた新天地に浮かれあがっていた。
俺に、ほんの少し魔が差しただけだったんだ。
新たな出逢いと魅惑的な誘惑は、ルフィとの関係に倦怠感を感じ始めていた俺には刺激が強過ぎて。
次の日、顔を見にきただけだと押し掛けてきたルフィが、一糸纏わぬ姿の男女を目撃してしまった…。
彼女を無理やり帰らせ、しつこくワケを問いただしてきたルフィに、限界を感じたのだ。そして心無い言葉を容赦なくあびせてしまった。
どうして、たかが“男友達”のテメェに其処まで説明してやらねぇといけない!だったら話してやる俺は元から女が好きなんだよテメェが毎日好きだ好きだと喚くから鬱陶しくてしょうがなくOKって言ったかもしれねぇが、まさか本気にしてるとはな!ハッキリ言ってやる俺にはテメェと付き合ってる気なんてこれっぽっちもなかったよ!
いまさら、言い訳させてもらえるのなら…
あの時は、どうしようもなく疲れていたんだ。
ルフィの放浪癖は間を置かずに来るときもあれば何ヶ月も経ってから来るときもあった。
…言いかえればいつ起こるか分からない事態に、常に用意をしておかねばならないという緊迫感。
一方通行から始まった関係だったとはいえ、その間気持ちがまったく変わらなかったと訊かれれば答えはNOだ。
居なくなったと聞けば心配したし、街中を駆けずり回って捜すぐらいは当然のようにしていた。
やっとのことで見つけて、いつものようにゴメンと泣きべそをかくルフィを力一杯抱き締めて怒鳴り散らした。
だけど、一向に回数の減らないルフィの奇行、自ら進んで失踪しているという事実、慣れない環境へ適応するための精神的疲労が積もり積もって槍を為し、ついにはルフィを貫くことになってしまった。
その日を境に、とうとうルフィは完全に俺の前から消えてしまった。
2、3日したら帰って来るだろうと高をくくっていたルフィの家族ですら、今では街頭でビラ配りをしている。
全て、俺のせいだ。
「アイツが勝手に居なくなったんだろっ!?俺には関係ねぇよっ親友気取りで何でも解った風な口利きやがってっ!テメェに、俺のっ、何が分かるっていうんだっ!」
キツい目つきが一段と細見を増していく。そんなマリモ頭の視線に曝されていく俺は、さぞかし滑稽なのだろう。
うずくまって俺のせいじゃない、と叫ぶだけのクズヤローだ。あぁ、解ってんだ。ルフィを追い詰めた最低ヤローは、この俺だ。
「…分からねぇよ、そんなの。
けど一つだけ言えるのはな、」
「このままじゃ、ルフィも、そしてテメェも…
一生身動きがとれなくなるってコトぐれぇだ」
好きなんだろ?ルフィの事が。
女好きのテメェが、誰とも付き合えなくなるぐらいには、よ。
ああ、ああ。
そうだよワリィかよ、俺から見放したくせに今頃になってルフィに会って好きとか愛してるとか叫びたいとか思っちゃってる史上最低のクソ野郎だよ。
「る、ふぃ……っ、ルフィ…っ」
ひねくれ者からようやく洩れた本音に、マリモ頭は遅ェよ。と苦笑しながら俺の髪を乱暴にかき混ぜた。
知り合いに腕のいい探偵がいる、そいつに融通してもらえるよう頼んでおいてやるよとソイツは帰っていく。
ルフィ、どうか謝らせてほしい。
解っていて、ルフィのSOSを無視し続けた俺を。
次ルフィを見つけられたら、俺は今度こそ全てを投げ打ってでもオマエを繋ぎ止めてみせるから。
雲さえも、掴めるように。
(必ず、見付けてみせるから)
(もう少しだけ、時間を下さい)
現代パロ、病み系ルフィ×サンジ小説です。此方は雲さえも/ついには/宇宙《そら》の3章構成になっています。ページ数は1p/1p/3pとなっております。
以前はルフィ×サンジの方に展示してありましたが、何度も読み返すうちにこちらの方が正しいのではないかと思い…ま、まぁどちら目線でも読めると思います;