雨よけの真意





「おォー。サンジ、おめぇ今日は一段と男前な姿してんなー!あひゃひゃひゃっっ」
「うっせェ!オロすぞてめェっ…!!俺は今傷心の身なんだぞっちょっとは気遣えよ!!」

ヒトの家に堂々と上がりこんで、我が物顔でベットの上に君臨しボリボリと口の端からポテトチップスの破片をこぼすソイツの顔に一発叩き込んでから、ジャケットをハンガーに引っ掛けた。
ヤツは思いっきりベット奥の壁に頭をぶつけたにもかかわらず、ニヤケ顔で後頭部を触りながら俺の悲しみの痕跡を見つめた。

「イテテ…。に、してもよォー、見事だよなー。どうしたら其処までクッキリ残るんだ?」
「そりゃお前、遠慮のカケラもねェ強烈な一撃を貰っちまったに決まってんだろ…
―――…ぐすん。」
「なっさけねェぞサンジ!ぐすんってなんだよグスンって!」

なにやら思い出してしまったらしいサンジがめそめそと縮こまる。

「なー。なんで俺の恋って長続きしねェんだろ…」
「んん。そりゃアレだろ」
「アレって?」
「おめぇの底知らずなナンパ癖。」
「ンだとーっ!あれはスキンシップだ!!美しいレディを見かけたらまず声をかけるっ、2にお茶に誘うっ、3に連絡先を訪ねる!!これはこの世に産まれおちた男の義務だろ!!」
「ししし、サンジのそういう所が面白ェよなっ!!!!」

そういうとソイツはガサゴソとポテトチップスの袋に手を突っ込んで再びオヤツを食べる事に集中した。
しかし、何故コイツがココにいるんだろうか?
まぁ大方、部活を終えて疲れきって(もしくは腹が減りすぎて)ぶっ倒れかけていたコイツをジジィが見つけたんだろう。
一応こんなクソザルでも俺の幼馴染で長い付き合いだ。対応も身内全員が心得ている。

「で、ジジィは今厨房か?」
「おう。今日はビーフシチューだってよ!俺超楽しみだァ〜〜!!」
「だったら夕飯腹いっぱい食えるように少しは菓子遠慮しろよ!なんだよその食べ散らかした袋の山はよォ!?」
「心配すんな、まだ腹1分目だ。」
「…あー、そうだったお前はそういうヤツだったな。」

呆れ果てた様子でベットの淵に背を預けたサンジは、テーブルにおいてあった雑誌を手に取る。もう相手にするのは面倒とばかりに雑誌に目を通し始めたサンジに、ルフィは菓子に伸びる手を引っ込め、おもむろにサンジの背後に這い寄った。

「なァサンジ。」
「あァ?」
「痛ェか?ソレ。」
「あぁ、痛ェよ当たり前だろ。クッソーー、随分冷やしたってのにジクジクと痛みやがってェ…」
「指細ェな〜、あんま大きくねェし」
「そりゃ綺麗な掌してたからなっ!!ンでもまさかあんなにも力があるとは思いもしなかった……
―――…ぐすん。」
「あー、ヨシヨシ。すぐめそめそすんなよ〜〜男だろー?」

乱暴にぐりぐりと目の前の金髪を掻き回すルフィ。だが、思い返せばついさっきまで指先がベタベタするお菓子代表候補のポテトチップスを食べていたコトを失念していた。案の定サンジはその不快な感触を頭皮に感じて何すんだてめェ!せめて拭いてからにしろよっ!!と怒鳴った。だが、ジクジクと痛み続ける頬への痛覚の所為か普段の覇気は心なしかないようにも思える。今回はそれなりに本気だったということだろうか?

「サンジ。」
「うるせェ。
今何か喋ろうものならオロすぞ。問答無用でオロすからな。」
「…泣くなよ。」
「よォーし分かった。今日の晩飯はてめェだこのクソザル…」
「うん。不味そうだな。」
「おぅ、クソ不味いぞ。俺なら死んでも食いたくねェな」
「泣くな、サンジ」
「…コレはただの水だバカ野郎。」

どうしてコイツはこんなにも不器用なんだか。泣きたいなら素直に泣けばいいのに。それからもう少し心の広い女を見つけろよ。サンジが見境なく女に声かけるのはコイツのスタンスなんだから、どうしようもねェってコトでわらって返してくれるような女を探せよ。俺だったら泣かせやしねェ。だってそんなサンジが俺は気に入ってるから。見てて面白ェし飽きねェし、女性至上と言い張るわりには男の俺にも優しいし頼りになるし、

バカでアホで、
―――…可愛い。

こんなコトを言った日には、腹に一発渾身の一撃を決められるんだろうなァ〜。でも俺だったら。俺なら。そう考える自分が止められない。

だってしょうがないじゃないか
気付いたらサンジしか目に入らなかったんだ。サンジだけを追いかけてきたんだ。

「サンジ、まだココ痛いか?」
「痛っ!痛いっつってんだろ!?突くなバカっ!!」
「ん〜…んじゃ、俺が治してやるよ」
「あァ?何言っ…
ってオィ!?!!」

ベロリ、と。

瞬間飛びあがって尻餅を一回。サンジは目をこれでもかってぐらい開いてまるで未知との遭遇を果たしたかのような間抜け面で見上げた。

「“怪我は舐めてりゃ治る”ってゾロが」
「ま、ま…あンのマリモ野郎ォオオオ!!クソふざけたコトをこの猿頭に吹き込みやがってェエエエエ!!」

ゴウゴウと背後に炎を背負ったサンジはすくっと立ち上がりビシリとルフィに向かって指差した。その顔は赤くなったビンタの痕を掻き消すぐらいに真っ赤で。

「いいかルフィィ!
そんな医学はこの世に存在しねェ、たとえ民間療法と訴えるヤツがいようとも俺がぜってェ認めねェからなァっ!!!!」
「ししし、そっか!」
「た、楽しげにわらってンじゃねぇぞ!!!!
こンンッのクソザルゥウウーーッ!!!!」

振り上げられた片足に、あぁやっぱり無傷じゃ済まないなコレ、と他人事のようにその瞬間を待つ。
まぁでも、それでも俺には結構甘いこの幼馴染は、病院送りなんて悲惨な事態にはしないのだろうな。






(だから俺につけこまれちまうんだよ、サンジ)


END

《1》

雨よけシリーズ、真意編です。
本当は短編用の小説がずるずると長引いて長編化した作品なので話の区切りがおかしくなってます。